聖星町(せいじょうちょう)南側外れに佇む大きな洋館。

グローリーグラウンド、ひいてはこの地球上の世界までも支配せんと企む魔女、メイガス・エミリーが、自身の部下である子どもたちの組織、ダークチルドレンズのメンバーのアジトとしてここの地権者より買いとったものだ。だがしかし、勿論付近の住民には何が本当の目的なのかはわからなかった。
そして、ここに逗留している子どもたちの目的も。野望も・・・


「ヤオトメ・ユイトぉ〜・・もうっ!なんなのよアイツぅ!あとちょっとで愛澤悠奈に目にもの見せてやれたのに!」

洋館の広大な噴水つきの庭園。その噴水に際に腰掛けながら、ダークチルドレンズのメンバーの1人、桃色のショートヘアの少女、ジュナが不機嫌にぼやいていた。
話はほんの4日前までに遡る。エミリーの目的達成のため、邪魔な愛澤悠奈率いるセイバーチルドレンズをやっつけ、ついでに妖精・レイア・フラウハートをさらってしまおうと考えたジュナは、ジュエルモンスターを引き連れ、意気揚々と乗り込んだ。
結局、新たなセイバーチルドレンズメンバーも覚醒してしまい、ジュエルモンスターも倒され、計画事態は失敗に終わってしまった。しかし、それだけならばまだ納得はできる。
新たな敵の覚醒という想定外の事態が起きてしまったからとなんとか言い訳はたつ。
しかし彼女を大いに不機嫌にさせているのは別のことだった。
一矢報いようと最後にジュナが放った攻撃魔法。それが正に悠奈にヒットし、痛い目を見せてやれようと思った時、邪魔が入り、ジュナの放った攻撃魔法を掻き消してしまったのだ。

そしてあろうことか邪魔をしたのが、自分たちの仲間であり、エミリーがとくに目をかけているハズのヤオトメ・ユイトであった。
なぜ味方であるハズの八乙女唯人がせっかくのチャンスをムザムザ自分で潰し敵である愛澤悠奈を助けるのかジュナにはわからなかったし、何よりも自分の作戦が妨害されたというのが一番頭にきた。
結局サキや妹のアカネ。その他のメンバーにはもの笑いの種にされるし面白くない。


「いっつかギャフンと言わせてやるんだからぁ〜〜〜っっ」

そうジュナが息巻いていると背後で不意に声がした。

「クスクス・・残念だったねぇ〜、ジュナちゃん♪」
「!・・・あ、アミ?な、何よ。何か用?」

ライトブルーのロングヘアを揺らしながらジュナの背後に歩いてきた少女。
青のタンクトップに白の薄手のレースの上着を身に付け、水色のミニスカートをつけた愛らしい女の子。
ジュナと同じダークチルドレンズのメンバーであるアミだ。側には、紫のブラウスに、今日は白のミニスカートを身に付けたサキも一緒だ。

「やられちゃったんだって?ザンネンだったねー♪キャハハっ♪」

無邪気に笑うアミの姿に唇を噛んで睨み付けるジュナ。他のメンバーからみればこのアミ、さほど頭に来るようなあからさまな態度はとらないのだが、無邪気な顔で辛辣な言葉を無神経に放ってくるのである意味一番勘に触る。

ギリギリと歯軋りしながらケラケラ笑うアミを睨み付けるジュナに、サキは話し掛けた。

「・・ヤオトメ・・ユイト?」
「そーよ!アイツのせいで何もかもメチャクチャっ!なんでエミリー様があんなヤツ頼りにしてんのか訳わかんない!」

「エミリー様のことそんな風に言うのやめなさい。きっと、エミリー様にはエミリー様のお考えがあるのよ」

「何よエラそうに・・アンタだって失敗したとき気分悪かったクセに人にはいっちょまえに説教?意味わかんない」

皮肉たっぷりに言うそんなジュナを尻目に相手にしない。という感じでお気に入りのマニキュアを取り出して噴水に腰かけネイルするサキ。
そんな彼女をにジュナもフンッと吐き捨ててそっぽを向ける。

ネイルしながらサキも考えていた。
そのヤオトメ・ユイトのことを。

現在、エミリーによって名目上とは言えダークチルドレンズのリーダーに任じられているサキ。
メンバー1人1人を性格も含めて一応は把握しているサキ。そんな彼女から見ても、そのユイトという人物は謎が多かった。

エミリーが自分の知らないうちにダークチルドレンズの1人として任命したという話だが、何故エミリーがユイトだけユイトにだけそこまで勝手を許しているのか?
エミリーにとってユイトとはどういう存在なのか?
未だにわからなかった。
だからこそエミリーの真意がわからないうちは余計な詮索は無用と考えた。ヤオトメ・ユイトの存在はジュナ同様自分も腹立たしいと考えてはいたが、エミリーに対する忠誠心は誰より強かった。


「キャハハハハっ!♪vv」

真剣に考え事をしているサキやジュナを邪魔するかのように甲高い笑い声が上がる。

「ちょっとちょっとサキちゃん、ジュナちゃん見て見てよコレぇ〜〜♪」

見るとアミが携帯電話の動画サイトにてアニメを見て大笑いしてるところだった。
そんな彼女の様子に思い切り冷たい視線を送るサキとジュナ。2人の視線を知ってか知らずか?アミは直後にサキとジュナのほうへニッコリ笑顔で駆けてきた。

「ねえ、サキちゃん。今度は、その愛澤悠奈ってコさ、アミにやらせてよ」
「はあ?」
「アンタにぃ?」

「あっ!何よぅそのカオ。失礼しちゃう」

2人の反応にアミは口を尖らせる。
顔を見合わせるサキとジュナ

アミは性格が軽い。
全体的にあっけらかんとしていて悪の組織のメンバーの1人であるにも関わらず普段は無邪気で明るくマイペース。
天然で場の空気が読めず、おっちょこちょいでおバカ。
メンバーの中では一番悪党とは縁遠い人物にみえる。
勿論エミリーがスカウトしたのだから魔法の才覚は確かなのだろうが、自分たちさえ手を焼いた悠奈たちをこのチャランポランなアミが倒せるとはとても思えなかった。

「ねぇいいでしょー?アミに行かせて行かせて行かせてぇ〜〜」

駄々っ子のように自分の腕をグイグイ引っ張るアミを適当にあしらうサキ。そんな彼女にジュナが耳打ちした。

「ちょっと、どーすんのよサキ。このままアミに任せたら他の連中だって黙ってないわよ」
「わかってる。でも逆にチャンスかも、敵がまだどれくらい戦力を隠してるのかわからないし、アミを行かせて様子を探るのもいいかも」
「ハナから捨てゴマに使う気?」

そう尋ねる自分にニヤリと笑って返すサキを見てジュナはやっぱり中々の悪女だと思った。

「いいわアミ。それじゃお願いしよっかな」

「きゃあーーv♪サキちゃんありがとぉー!待っててね!そのユウナってコ、コテンパンにしちゃってぇ、レイアって妖精つかまえてくるから♪」

そのままアミは上機嫌でサキたちに手を振ると駆け足で出ていってしまった。

「・・・大丈夫なのあのコ?」
「知らないわ。ま、どこまでやれるか見てみましょう」

どこか楽しそうに出ていくアミの後ろ姿を見ながらサキは不適な笑みを浮かべていた。


「なぁ、ユイトぉ〜今度はあの女があのユウナとかいう小娘んとこにいくらしいぜ?どーする?」

「・・・さあな」
「さあなって・・いいのか?新しいオモチャ見つけたって嬉しそうだったのにさ」
「フッ、うるせえよ。レム、オレも〜ちょい寝るわ」

洋館の屋根の上、日向ぼっこをしながら、問題のユイトと、妖精レムがそんな会話をしていた。




「ねえみんなっ!グローリーグラウンドに行こうよ!」

またいきなり何をワケわかんないこと言ってるんだこのチャランポランは?

悠奈が今のレイアの言葉に対して率直に思った感想だった。

「・・いきなり何言ってんの?レイア」

「だからさぁ、1度グローリーグラウンドに行こうよ。って言ってんの!セイバーチルドレンズもヤオランくんも入れて4人になったワケだし、今までのコトをイリーナさまに報告したいしさ」

と言って、レイアは肉まんを頬張っているヤオランをチラリと見た。

「グローリーグラウンドって・・・もしかしてレイアがいた、その・・・異世界? 」

「うん!そーだよ」

元気のいい声でハツラツと答えるレイアに、その場にいた子達はみな一様に怪訝な顔をお互いに見合わせた。
私立・天道学園初等部・カフェテリア。
広大な敷地を有する中庭にはカフェテリアが併設され、昼休みには生徒の憩いの場となっている。

そんな中庭の一角。またもや愛澤悠奈(あいざわゆうな)をはじめとするセイバーチルドレンズの面々は弁当を広げながらファンタジー満点の話に耳を傾けていた。
メンバーは草薙日向(くさなぎひなた)、香坂七海(こうさかななみ)に、さらに新たに煌窈狼(ファン・ヤオラン)を加えた計4名。
妖精もレイアを含め8人が登場した。火の属性魔力を持つイーファ、水のウェンディ、風のケン、木のリフィネ、雷のヴォルツ、裂のバン、星のルーナ、そして月のユエ。
この内イーファ、ウェンディ、ユエの3人が自分のパートナーを見つけ、セイバーチルドレンズは新たな力を得て出発したワケだが・・・

毎回毎回宙に浮いたようなまるで現実味の無い話が飛び出すレイアだが、それにしたっていきなり異世界に行くとは一体全体どういうワケだろうか?

「なぁレイア、グローリーグラウンドに行くったってさぁ・・」
「どーやって行くねんな?電車とか飛行機とかで行けんの?」

「違うぜヒナタ!グローリーグラウンドにはウィザーズゲートを使って行くんだよ 」
「そうよ。この世界とグローリーグラウンドを繋ぐウィザーズゲート。私たちもそれを通って来たのよ」

レイアのかわりにイーファとウェンディが日向と七海の質問にそれぞれ答えるが、そもそもそのなんとかゲートとやらがさっぱり意味不明だ。

「なんなのよその・・う・・ウいず、ゲート?」

「ウィザーズゲートよ!」

「そのウィザーズゲートなんだケドさ。何なんだよ?でドコにあんの?」

悠奈と窈狼に言われたレイアはフフンと得意気に胸をそらした。

「よくぞ聞いてくれました!ウィザーズゲートってうのはねぇ〜・・」
「魔法力を結集させた空間に時空の歪みを生じさせてあっという間に目的地までワープする魔法ゲートやで〜」
「あんもうっ!アタシが言おうと思ったのに!」

横取りされた!とばかりにヴォルツに膨れるレイア。そんなやりとりが益々悠奈たちを混乱させたが、日向が苦心しつつも状況をまとめてこう言った。

「ようするに、さぁ・・そのグローリーグラウンドに行くためには、そのウィザーズゲートっていう一気に行き先にワープできちゃうどこでもドアっぽいアイテムを使うワケだろ? 」

「そう!流石ヒナタくんスゴイ!そのどこでもドアとか知らないけど・・・そういうこと!」

パチパチと拍手してヒナタを褒めるレイアだったが、当の日向は微妙な顔だ。

「ねえ、グローリーグラウンドに行ったとしてさぁ、ウチらコッチに戻って来れんの?今日7時からウチの家族とユウナんとこの家族でご飯食べる予定あんねんケド・・」
「そうよ、遅れたらまた怒られるだろーしさぁ・・・」

「それは大丈夫!戻ってくるときもゲートを使えばいいだけだから!ねぇユウナちゃん。行こうよ。イリーナ様に会って欲しいの、スゴく優しくていいお姫様なんだよ 」

言われて考え込む悠奈。日向や七海、窈狼の顔を見回す。
不安そうな悠奈を元気づけるように、日向が再び口を開いた。

「行こうぜ、ユウナ!」

「ヒナタくん」

「せやな。もうこんなにガッツリ関わってもうたし・・」
「魔法の世界ってのも面白そうじゃんな!ナナミ!」

そんな窈狼の言葉に、ウンウンと嬉しそうな七海。そんな3人の様子が、悠奈の意思を固めた。

「わかった、よし!放課後行ってみよう!」

悠奈の言葉に、妖精うなづいた。その時だった。


「ランチタイム中に悪いケドいいかな?」


『わああぁぁーーーーっっ!!??』


悠奈の背後からかけられた声に驚き、悠奈たち、妖精たちがともに飛び上がった。

「!?・・ど、どうしたの?」

「い・・いや、ははは・・・」
「べっ・・別になんでもないです・・って、あっ!生徒会長!」

振り返ってみると、そこには天道学園初等部生徒会長・時任瞬(ときとうしゅん)がいた。
明るいブラウンヘアをストレートに下した快活な少年で、その容姿、スタイルから女子の人気も高く、校内にはファンクラブまで存在するありさまだ。
そんな瞬がニッコリ笑って悠奈たちの前に立っているのだ。

「な、なんか用ですか?」

悠奈がおずおずと聞きだす。流石に6年生で生徒会長ともなるとそれなりの迫力がある。すると、瞬は目線を日向の方に向けて話し始めた。

「3年生の学年委員長の、草薙日向くんだよね」

「え?あ、ハイ・・・そうですケド・・」
「今月の学年アンケートの集計、なるべく早く渡してね」

「は?アンケー・・ああっ!いっけね、忘れてた!ゴメンナサイ!すぐに集めます」
「お願いね」

またニッコリ優雅な笑みを浮かべて瞬が去って行ってしまった。

「ハァ〜〜・・ビックリした」
「アタシもぉ〜、普通の人にはアタシたちの姿は見えないんだけど、やっぱり緊張しちゃうよねぇ〜いきなりだとさぁ」

「それより生徒会長ってムッチャイケメンやんな!今度ファンレターでもだそっかな?」
「あら、ナナミちゃん浮気ものねぇ、ヒナタくんもヤオランくんもいるのに」

他愛もない話で盛り上がる一同。そんな悠奈たちだが、物陰からひっそりと見られていることには誰も気づかなかった。


「シュン、いいのか?アイツらも僕らの一員ではないのか?フェアリーも手に入れているようだ」
「・・今はまだ僕らが手出しをする段階じゃない。僕らは僕らの任務をキッチリこなさないとね。だろ?」
「やれやれ・・・僕のパートナーはことのほか面倒な性格のようだな・・」



所変わって放課後、天道学園大図書館。

「で、ココに集まって本当に行けんの?」

七海が辺りをキョロキョロと見回し、怪訝な表情で尋ねる。

「だいじょーぶでしゅぅ〜、ここはひそかにまりょくがあんてーしてるでしゅう。ここならグローリーグラウンドまでひとっとびでしゅ!」

舌っ足らず妖精、ルーナが笑顔で言うと、窈狼の横からユエが出てきた。そしておもむろに懐をまさぐると、小さなタクトが姿を現した。

「オイラたちの魔力を、このゲートーキーパータクトに込めて、そしてウィザーズゲートを作り出すんだ!」
「ゲートはグローリーグラウンドまでつながっているわ。着いてからは私たちにまかせて」
「オラオラオッシャァアーーっ!!オレ達がレインヴァード城までしっかりエスコートしてやらぁ〜!燃えてきたぜボンバァー!」

ユエ、リフィネ、バンがそれぞれ行ってからのことを説明した。徐々に不安が高まる悠奈。

(だいじょうぶかなぁ〜・・)
「大丈夫だよ」

自分の不安を見透かされたようにかけられたセリフ

「!・・ヒナタくん・・」

「オレがついてる」

その一言に顔を赤らめ、悠奈は俯きながらも少し勇気が湧いた。

「ああぁ〜〜〜っっ!またヒナとイチャイチャしよってからにこのドロボウユウナぁ!」
「はあぁっ?いっ・・イチャイチャって・・バッカ!違うわよアタシはただっ・・」
「お、おいナナミ。そんなにつっかからなくたって・・」
「うっさいボケ!ヤオは黙っといたらええんや!アホ!」
「ぼ・・ボケ?アホって・・・」

散々な言われようでガックリきた窈狼。
漫才が始まった一同をしり目に、風の妖精ケンがレイアに言った。

「おうレイア。そろそろ行こうや、ウゼェしコイツら・・」
「アハハ・・そだね。それじゃあ」

レイアがユエから受け取ったタクトを翳すと、それに妖精たちが次々に魔力を送り込んだ。

「行けぇ〜炎の力よ!」
「お願い水の魔力」
「木の魔力よ、その力を示せ」
「疾風怒濤!風よ貫け!」
「バリバリしびれてやぁ〜、雷さん!」
「オラオラオラーっ!弾けろ爆裂!」
「お星様〜おねがいでしゅぅ〜」
「月よ吼えろ!魔力を放て!」

それぞれがそれぞれ、魔力を送る。見る間にレイアのタクトが光り輝きだした。

「す・・スゴイ・・」

「うぅ〜〜ワクワクしてきた!」

「ホンマに行けるんや!異世界!」

「グローリーグラウンドかぁ〜・・どんなトコなんだろう?」

思い思いに光を見つめる4人。この先に魔法の異世界がある!
そう思った矢先に、悠奈の携帯にママからメールが入った。

「?・・あ、ねぇナナミ〜、今日はナナミと5時までに帰って来てってさ」
「5時ぃ〜・・大丈夫なんレイア」
「大丈夫!時間の進み具合は、グローリーグラウンドといっしょだから!ぱっと行ってぱっと帰ってくればあっという間だよ!」

「ならいいけど・・・」

思えばこの時になにか悠奈はヤな予感がしていたのであろう。

「さあ、みんな!行くよ!」

レイアの声で、突然4人が光の中に吸い込まれていった。
まではよかった。


「きゃああぁぁ〜〜〜〜っっ!!」

「うわあぁぁ〜〜〜っっ」

「ちょっ・・ちょっとまっ・・キャアァァーーーっっ」

「わっわっわっ・・わあぁぁーーーっっ」

4者4様の悲鳴。
光の流れる本流に飲み込まれまるで身動きできず、ただただ流れに身を任せるしかなく、飲まれるままであった。

「なっ・・なっ・・なっ・・なんなのよコレぇ〜〜?レイアぁーーっ!」
「なぁによ、大丈夫だってば!これはウィザーズゲートよ。絶対安全なんだから」

「こ・・こ・・これのドコが安全なのよぉ〜〜〜っっ」

悠奈の怒りと焦りが混じった悲鳴が渦の中にこだましていた。



小鳥がチチチ・・とさえずる穏やかな天気。

気温暖かく、周りの木々は風に揺れてざわざわとゆれていた。

平和な午後。

グローリーグラウンドの首都、レインヴァード、その中枢である王城レインヴァード城の執務室で、齢19を迎えたばかりの新女王。
イリーナ・グランディスは、執務を一段落させ、午後のティータイムを楽しんでいる最中だった。

「女王陛下、夕刻からはゾルター将軍との会談があります。夕食はおそらくは会食になるかと・・」

「ありがとうアンドレイ、心得ておきます」

イリーナはアンドレイと呼ばれた黒髪の切れ目にメガネをかけた男性に、微笑んだ。軽くお辞儀をするアンドレイ。
ふう、とため息をつくイリーナ。母であった王妃、ソフィア・グランディスが倒れてから早、半年が過ぎた。
急遽の戴冠式もそこそこに慣れないながらも行政に携わってきた彼女だが、やはり若い彼女にはストレスがたまる。あらためて母の偉大さを思い知るばかりの日々だ。
国民の日々の生活、その他様々な問題のことも気にかかるが、何といっても目下最大の悩みはメイガス・エミリーのことである。
母が身を呈してこの場から退けたエミリー。彼女がこのまま引き下がるとはどうしても思えなかった。
そのためにフェアリーであるレイアを地球世界に派遣したのであるが、そのレイアが一向にもどらない。
もしや失敗したか?そんな考えすら最近では浮かんできた。

しかし、レイアのことを考えていた、まさにその時だった。


「姫さまぁ〜〜っっ!ひ〜め〜さ〜ま〜っ!」

けたたましい声を上げながら、猛烈な勢いで、白髪の老人が執務室に駆け込んできた。

「はあっはあっはあっ・・姫さま!大変ですぞ!」

「じいや!」
「何事ですディクソン殿、騒々しい。それにもうイリーナ様は姫ではありません。我々の新しい女王陛下です」

「いいのですよアンドレイ。どうしたのです爺や、そんなに慌てて」

「はっはっ・・ふぇっ・・フェアリーの、レイアが、レイアが戻ってきましたぞ!」

その言葉に、イリーナは思わず立ち上がった。



  どっしぃ〜〜〜〜んっっ!

「きゃあっ!?」
「わわっ!?」
「あいたっ!!」
「ぎゃっ!?」

光の扉が虚空に現れ、そこから4人の少年少女たちが姿を現した。
石畳に倒れこんだ4人を、周辺の人々がなんだなんだと好奇のまなざしで見る。

グローリーグラウンド王都、レインヴァード。

その午後に、突然異世界の住人が乱入してきたのだ。

「あいたたた・・・もぉ〜〜、レイアぁ!」

「だっ、大丈夫?ゴメンネ、ユウナちゃん」

「空中にいきなり吐き出されるなんてな・・」
「いったぁ〜〜・・・もぉなんやのぉ?ふざけんといてやあ」
「どこなんだよココ」

4人が文句を言いながらも立ち上がり、そして周りを見て驚いた。

西洋風の白い建物、大きな大きな石の門。
果物やアクセサリーを売っているヨーロッパの中世風の露店や、時代錯誤とも言える街並み。馬車やそして何より、周りにいる人々の格好。
町人、商人、そして古風な格好の騎士。みな自分達に驚いた様子ではあるが、それは悠奈たちも同じだった。

「・・ここが?」
「そうよ、ここがグローリーグラウンド!そして王都・レインヴァード!」

悠奈の問いにレイアが答え、その直後、子どもたちの間でワッと歓声が上がった。

「スッゲエェ〜〜!ははっ!スゲエスゲエスゲエッ!ホントにゲームとか漫画の世界みたい!」
「ホンマやぁ!ムードたっぷりってカンジぃ〜!♪」
「ホントに来ちまったよ!RPGゲームそのまんまの世界!」
目に見えるファンタジー色溢れる光景。
漫画やゲーム。おとぎ話の中でしか見たことのない世界が現実として目の前に広がっていた。

日向や七海は言うに及ばず。窈狼や、外キャラをクールに作っているはずの悠奈までもが目を丸くして興奮していた。
きゃいきゃいと騒ぐ小学3年生の子ども達、その様子に気づいた門兵が2人、槍を構えて悠奈たちに近づいてきた。

「何者だ!お前達!」
「怪しい子どもだな・・もしやダークチルドレンズ?・・あのエミリーの手先か!?」

「きゃっ!?」
「うわっ・・なっ・・なんだよ?」
「ちょっ、ちょっとまってえな。ウチら別に怪しいモンじゃ・・・いや、怪しいんかな?」
「みたいだぜ・・少なくともこっちの人には・・」

グイと槍を突きつけて言う兵士達に、いきなり悠奈達はたじろいだ。そんな悠奈達の前にレイア達フェアリーが立ちふさがった。

「待って!アタシです、フェアリーフォレストのフェアリー、レイア・フラウハートです!」

「むっ!・・・こっ、これはレイア殿!よくご無事でっ・・では、おお、ではこの子どもたちは・・っ!」
「はい、イリーナ様が探していたセイバーチルドレンズ・・エミリーの野望を打ち砕く勇者です!」



「ただいま女王陛下が謁見にこられます。こちらの方でしばしお待ちください」
「は・・ハァ。・・どぉも・・」

レインヴァード城、1階広間。
愛澤悠奈、草薙日向、香坂七海、煌窈狼、そしてレイアたちフェアリー一同は豪奢な装飾が施された、王城の客室に通された。
レイアの話を聞いた番兵たちは一様に態度を変えた。
先程までの自分達の非礼を詫び、重ね重ね悠奈達にお辞儀をして城の門を開け、受付の前に通した。
さらにはそこでも謁見の優先権が取り付けられ、城に入って3分と待たずにこの広間まで通されたのだ。

何が何やらわからないまま慌ただしく事が進んでいたが、どうやらその女王様に会うことができるらしいとわかってとりあえず4人ともホッとした。

「よかったねユウナちゃん!運よくワープできたのがお城の前で、ラッキーだったよ!」
「ラッキー・・ってナニソレ?ひょっとしてあのワープアイテムって場所指定できないの?」
「う〜ん、一応行きたい場所の近くにはワープできるんだけど、正確な場所には結構ランダムなんだよねぇ〜」

なんだ結局ビミョーな性能じゃないかと一瞬白い目でレイアを見つめた悠奈だったが、それぐらいでやめておいた。
気を取り直して、広間の造りに目を走らせた。

大きな石の柱。金の装飾、なんとなく高そうな絵、これまた高そうな置物。やっぱりおとぎ話に出てくる正にお城、といった感じの部屋だった。

「な・・なんかスゴイねヒナタくん・・」
「え?・・う〜〜ん・・そぉ・・だね」
「あれ?驚いてないの!?」
「い、いや、もちろんスゴイと思うよ。ただ・・・なんていうか、麗ちゃんちも・・ああ、1人友達の家にもこんな感じの部屋があってさ。あんまりその・・感動がそんなにはなかったかなぁ?・・て」
「そ・・そお・・なんだ・・」

野暮なこと聞いたかな?と悠奈は顔を紅くして俯いた。

「ヤオ、ヤオ!見てぇコレ!この果物!見たことないでぇ〜」
「ホントだっ!なんとなくリンゴとか、イチゴとかバナナに似てなくもないけど・・色が全然違う!」
「イイ匂いするし、食べたらアカンかなぁ?」
「え〜〜・・いきなりはヤメたほうがよくないか?」

七海と窈狼のやり取りを見ながら、結局雰囲気に呑まれてるのは自分だけか。と少し溜息をつく悠奈。
レイア達にでも話しかけて気を紛らわせようかと思った・・・その時だった。

「失礼いたします。謁見の準備が整いました。どうぞお越し下さい」
兵士がドアを開けてかしこまって言った。



「イリーナ様ぁ!」
「レイアっ!よく無事で・・・心配していたのですよ。」

謁見の間、玉座に座っていた女王、イリーナ・グランディスが、小走りでレイアの方へと近づいて来た。レイアもその姿を見ると、悠奈の方から女王の方へと飛んで行った。

「よくがんばりましたねレイア。辛かったでしょう?」

「いいえ、イリーナ様のためだもん!レイア、ちっとも辛くなかったよ」

笑顔で、そう答える小さなレイアを優しく抱きしめた。そして悠奈の方へと視線をやる。

「そちらが?」

「はい!紹介します。セイバーチルドレンズとして覚醒した、ライドランドの、ユウナちゃんと、ヒナタくんと、ナナミちゃん、ヤオランくんです!」

紹介されて、悠奈も日向達も、即座に固まって姿勢を正した。やはりロイヤルな方がかもし出す雰囲気は子どもながらに緊張するものがあるのかも知れない。しかし、イリーナはニッコリと笑うと、柔和な顔のまま悠奈に近づくと、手をとって屈みこみ目線を悠奈に合わせて話し始めた。

「ありがとう。ユウナちゃん。小さな勇者様。私達を助けて下さって、ヒナタくん、ナナミちゃん、ヤオランくん。グローリーグラウンドの人間として本当に感謝しますよ」

悠奈はレイアの言った意味がわかったような気がした。「とってもいい人」確かにそうだ。
高圧的な態度もなければ、気品を鼻にかけるでもない。だれにでも優しい言葉をかけてくれる本当にいい人だと思った。
日向も七海も窈狼も照れ笑いしている。

「い・・いやぁ、オレ、ユウナに誘われただけだから・・」
「アッハハハっ!まぁウチらにまかせた以上はど〜んと大船に乗ったつもりで安心してぇな!な?ヤオ!」
「そうだぜ!女王様の願い、オレ達が叶えてやるからさ!」

可愛らしくも頼もしく感じる答えに、イリーナはまた笑顔になった。

「これで12人のセイバーチルドレンズのうち、4人が揃ったのですね」
「はい、後残るは8人!がんばって集めちゃいます!ね、ユウナちゃん」
「え?・・う、ウン・・」

「ゴメンなさいねユウナちゃん、アナタに負担をかけてしまっているようで・・」
「えっ!?・・いや、あの・・べっ、別にそんなつもりじゃあ・・」

自分の少し戸惑った反応がもしかしたらイリーナに不安を与えたかも?と思い悠奈は慌てて言い直した。

「ただ・・アタシって・・ホントはそんなに頼りにされるようなキャラじゃないんです。だから・・・レイアや女王様の期待に・・もしかしたら答えられないかもしれない・・だから、そうなったら・・・」

「まあ、そんな心配をしてくれていたのですね。ありがとう。そこまで私達のことを考えてくれていて・・でもね・・・」

不意にもう一度悠奈の手を取り、イリーナは微笑んだ。

「あなたには、無限の可能性を感じます。きっと・・大丈夫ですよ。」

(本当に優しい人なんだなぁ)

イリーナの言葉に幾分場が和んだ、その時だった。


「たっ・・・大変だあぁ〜〜っ!」

兵士の1人が、謁見の間に駆け込んできた。かなり緊迫した様子だ。

「ええいっ!騒がしい!なんの用だ?謁見の最中であるぞ!」

「も、もうしわけありませんアンドレイ様!し、しかし!敵が!ダークチルドレンズとなのる少女がっ・・モンスターを引き連れて現れました!」

その一言で場に緊張が走った。

「ウソぉ!?こんなトコまで追って来たのぉ!?」
「チィ!なんでオレ達の居場所がわかったんだ?グローリーグラウンドに帰ったってコトが!」
「エミリーの・・仕業?」

レイア、イーファ、ウェンディの3人が、それぞれ虚空を睨みつけた。

「街中でモンスターを暴れさせて・・住民は怖くて逃げ回っています!」

(平和で・・・穏やかな国なのに・・こんなに優しい人達を怖がらせるなんて・・)

悠奈の中で、何か今までに無い感情がふつふつと滾っているのがわかった。


(ぜったいに、ゆるさないんだから!)

「ヒナタくん!ナナミ!ヤオラン!」

「うん!」
「よっしゃ!」
「オッケイ!」

「アタシ達に任せて下さい!女王様!」

 

 

 

 

「キャハハハっ!いいぞいいぞジェリースライムちゃん!もっとやっちゃえ!」

王城近くの広場で、巨大なスライムのモンスターが露店などを薙ぎ倒しながら暴れ回っていた。
周りで闇の魔力に心を蝕まれて悲しげに、苦しそうに倒れた人々。
壊れた店や商品の残骸。

悠奈たちが駆けつけた時、あの穏やかな風景はどこにもなかった。
ボロボロにされた露店と泣き叫ぶ人々が悠奈たちを貫いた。

「ヒドイ・・・」
「メチャクチャや・・・」

その時、モンスターに指示を出しているらしい女の子の姿が目に止まった。彼女だ。
新しい刺客は・・・


「やめなさい!!」

「はにゃ?」

振り替える。悠奈より2つ3つ上の年齢だろうか?
蒼の髪を頭頂部で纏め、アップにした少女だった。少々勝ち気な感じを受ける猫っぽい目が印象的である。

「アーー!!アナタでしょ?ユウナちゃんって!」

やっぱり、自分を知っている。
この子がダークチルドレンズの1人だと悠奈は確信した。

「アナタ、ダークチルドレンズね!どうしてこんなヒドイことするの!?」

「えー?だってぇ、ヒマだったからに決まってんじゃーん。それにさぁ、こーやって暴れてればそのうちそっちから来るんじゃないかと思ったの!」

そんな理由でっ!と、食って掛かろうとした悠奈を日向が制した。

「なあ、どうしてオレ達がコッチのグローリーグラウンドにいるってわかったんだ?誰かに教えてもらったのか?」

日向の問いに少女はこともなげに答えた。

「エミリー様に教えてもらったの!アタシたちに連絡があってさぁ、セイバーチルドレンズも4人が揃ったからそろそろ1度女王に知らせに行く頃だってさ!だからアタシがコッチの世界に待ち伏せしてたってワケ。やっぱりエミリー様ってスゴイね!ビンゴじゃん♪」

やはり情報
源はエミリーらしい。
そう考えて悠奈はなおのことエミリーやダークチルドレンズが憎らしくなってきた。
ただ自分たちを追いかけるために何の罪もない人達を怖がらせたりヒドイことをしたりする。
こんなヤツラを許しちゃいけない!

「さぁて、そろそろ本気モードに突入しちゃうもんねぇ〜!ダークスパーク・トランスフォーム!」

そう少女が叫んだ瞬間、彼女の体が光に包まれた。
紫と青の光、見る間に少女の体がコスチュームを纏っていく。ビキニとブラウスが融合したような服に太ももギリギリのホットパンツ、長い腰帯が特徴の衣装で、手には拳銃らしき武器を携えていた。

「アタシ、ダークチルドレンズのアミ。よろしくネ!さあ、ユウナちゃん!そのレイアってフェアリーちゃんちょーだいね♪」

「ヨロシクなんて全然したくないっての!みんな行くよ!」

悠奈の号令でそれぞれが、ケータイを掲げる。みんなの体が光に包まれた。

『シャイニングスパーク・トランスフォーム!!』

光から解き放たれた姿、それぞれ魔女、戦士、回復士、武闘家の44様のスタイルの戦士が現れた。

「輝くひとすじの希望の光・・セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」

「情熱迸る勇気の炎・・セイバーチルドレン・ブレイブファイター!」

「大いなる、青き海の力・・セイバーチルドレン・ケアヒーラー!」

「闇夜を照らす輝きの月・・セイバーチルドレン・シャインモンク!」

4人の少年少女達が、闇の魔力に今、敢然と立ち向かった。

「行くよ、レイア!」
「うん!」

「イーファ !やるぜ!」
「おうヒナタ!」

「ほな行こか?ウェンディ!」
「了解ナナちゃん」

「ユエ、力貸してくれ!」
「あいよ!」


「おっもしろーい♪ジェリースライムちゃん!みんなでおもてなしして上げてぇ〜〜!v

アミがそう叫んだ瞬間、プルプルしたスライムモンスターの体がうねり、小型のスライムモンスターを産み出した。
小さなスライムがウニョウニョしながら悠奈達に向かってくる。

「うへぇ〜〜・・なんやのアレぇ?キモぉ〜〜・」

「とにかく、皆であのちっちゃいのから片付けるぞ!ジャスティスブレード!」

日向の手の内に刀が現れた。

「ハートフルロッド!」

「コルセスカ!」

悠奈も七海も武器を携え、窈狼だけは素手のまま切り込んだ。

「ほあっちゃあっ!」

「でやあーっ!」

気合い一閃。
日向と窈狼はそのまま小型スライムを空竹に斬り捨て、正拳で貫いた。
ズバッ!ドスッ!という音が響き渡る。
スライムたちはそれぞれ体を崩しながら、宝石を残して消えてしまった。

「ダンシング・ロッド!」
「やあっ!」

悠奈や七海も、武器を振るってそれぞれスライム達を駆逐していった。

「へぇ〜〜・・結構強いジャン。よおし・・・」

その姿に声を漏らすと、アミは銃を構え、悠奈たちを狙って引き金を引いた。
ダンッ!と音がして、銃は悠奈達の足元を撃ち抜いた。

「きゃあっ!?」
「ひゃわっ!?」

突然の攻撃に驚き飛び退く悠奈と七海。

「ウフフっ、マジックショックガン。魔法を弾に込めて撃ち出すマジックウェポンよ。使い手の魔力が高ければ高いほど威力が上がるんだってさ!今のは魔風弾(まふうだん)、次は魔炎弾(まえんだん)よ!」

カチリと弾を込めて今度は乱れ撃ちで魔法弾が悠奈と七海を襲った。

「きゃあぁ!!」
「うあっちっ!?アチチ・・・っこ、コラァ!ピストルのオモチャは人に向けたらアカンって教わらんかったんかい!ウチとヒナなんか昔オモチャのピストルで人狙って撃ったら後でママにお尻ペンペン30連発もろたねんからな!」

「恥ずかしいこと言うなよナナミ!行っけえ、ファイアボール!」
「ムーンレーザー!」

日向、窈狼がそれぞれ魔法を放った。それがアミの足下に今度は当たる。

「きゃあっ?やぁーん!」

直接ヒットこそしなかったものの大きくバランスを崩し、尻餅をついて倒れこんだ。

「ふみゅう・・イタタタ。もお〜、アッタマ来ちゃう!ジェリースライムちゃん!もうあんな子達踏み潰しちゃえ!」
「ピギギイイィィーっ」

その言葉に反応したモンスターが、のそりと悠奈達に向かって近づいた。

「させるかぁ!ウルフクローフィスト!」

モンスターに向かって駆け込みながら、窈狼が手に武器を装着した。

「ワイルドウルフコンビネーション!」

「ピギャーーっ!」

そのまま突進して連続してパンチや蹴りをモンスターに叩き込む。モンスターが仰け反った所を今度は日向が躍りかかった。

「弐百拾弐式・琴月・斬!」(にひゃくじゅうにしき・ことつき・ざん)

ダッシュからの当て身から肘打ちに繋ぎ、そのまま炎を纏った刀を天空に振り上げた。

「ぷぎょっおおぉーーっ!」

「今やユウナ!」

七海の言葉に大きく頷くと、悠奈はロッドを構えてモンスターに突き付けた。

「悪い心は正義の光で飛んでいけ。シャインハートフラッシュ!」

悠奈が構えたロッドから桃色の耀く光、そのままモンスターを包みこみ、浄化した。

「なによなによぅ!みんなしてアタシの邪魔しちゃって、もうこうなったら・・・水の精霊大いなるウンディーネよ、今我にその力を貸し与え目の前の敵を穿て!・・・アクアシュート!」

なんと、アミは最後の足掻きにレイアを直接狙って魔法を放ってきたのだ。

「きゃっ!!」

「レイア!危ないっ!」

体を張ってレイアを庇った悠奈に、魔法がまさに直撃するっ、その時だった。

突然、アミの放った水の魔法が四散して散った。

「直接フェアリーを狙うのはルール違反だな。おとなしく立ち去れ」

そんなクールな声が響いた。
目の前に立っていたのは銀のマスクで目元を隠した、仮面姿の少年だった。彼がアミの放った魔法を剣の一振りで掻き消したのだ。

「な、何よ、いきなり現れちゃってさ・・・誰よアンタ」
「名乗る気はない。それに、お前にも迎えが来たらしいぞ」

言われてアミが振り替えると、その背後に、黒髪の少年が立っていた。
「ゆ、ユイトくん・・・?」

「よぉアミ。そろそろ帰んぞ。」

そう言いながら悠奈を見つけて軽く手を降るユイト。悠奈はその男がこの間突然目の前に現れて、自分に不埒を働いた男だと気づいた。

「あぁーーーーっっ!!この間のヘンタイ男ぉ〜〜!」

「よ、ユウナ。また会ったな」
「きっ、気安く呼ばないでよっ!ま、またなんかやらしいコトしに来たんじゃないでしょうね!?」

「バーカ。今日はコイツを連れ戻しに来ただけ。もしかして期待した?ザンネンでした〜♪」

「バッ・・ざんねっ・・///ちがぁ〜〜っっバカバカっ!エッチスケベ!ヘンタイチカンヘンシツシャ〜〜〜っ!アンタなんかっアンタなんかぁっっ!」

「ゆ、ユウナちゃん落ち着いて!」

レイアがユウナを宥めてるうちに、日向がユイトの方へと歩みだした。

「やっぱりお前・・ダークチルドレンズだったんだな?」

「草薙日向・・だっけか?だったらどうする?」

余裕の笑みを浮かべて小馬鹿にするユイトに、日向はキッと燃えるような視線をぶつけて刀を構えた。だが、

「・・・!、何すんだよ!?」

日向を謎の仮面の少年剣士が遮った。その様子を見て、ニヤリと笑うとユイトは「じゃあな、ユウナ、草薙日向」と言い残してアミを連れて立ち去ってしまった。


「今の君じゃアイツには敵わない。」
「なっ!?そ、そんなのやってみなけりゃ・・・っ」
「今はまだ彼と戦う時じゃない。退くんだ」

そう言って、仮面剣士の後ろから現れたのは・・

「!!ああぁっ!?」

悠奈が声を上げる。なんとレイアたちと同じフェアリーだったのだ、金色の髪に白いジャケット、マント姿と可愛らしくも凛々しい出で立ちをしている。

「イーファ、アイツって?」

「わ、わからねぇ、誰だお前!」
「ふん、答える必要はない」
「な、なんだとぉーっ」

その場にいた皆が一様に困惑していた。自分たちと同じフェアリーを持った人物。
魔法を剣の一振りで掻き消した実力。
もしかして・・・

「あ、アナタも・・・セイバーチルドレンズ・・なの?」
「教えて!アタシたち以外にもいるの!?セイバーチルドレンズが?アナタはアタシたちの味方?それとも敵?」

悠奈とレイアの質問に、彼は一言だけ答えた。

「今はまだ答える時じゃない。ただ、僕は敵でも味方でもない。今はね。いずれ時が来たら話すコトもあるだろう」

そう残して、彼、謎の仮面剣士は立ち去ってしまった。



「ありがとう。ユウナちゃん、ヒナタくん、ナナミちゃん、ヤオランくん。また助けてもらってしまいましたね」

「そんな・・いいんですよ」

悠奈はイリーナの言葉に顔を紅くして答えた。
幸いなことに、広場は器物の破損こそあったものの、怪我人はなく、皆ジュエル・モンスターが消えてしまったコトによって気がついた人々は、正気を取り戻し、広場の片付けを始めていた。
モンスターやダークチルドレンを追い払ってくれたのが悠奈たちだと判ると、皆口々に「ありがとう」「ありがとう」と言い、日向や窈狼を大いに照れさせた。

「レイア、本当に素晴らしい子達を見つけてくれましたね。12人の勇者のうち、これで残るは8人。頼みましたよ」

「ハイ!」と答えたレイアに頷くと、イリーナは悠奈の手をとって優しく言った。

「ユウナちゃん、本当にありがとう。これからも、レイアを支えて上げて下さいね」

そんな優しい女王さまに、悠奈も笑顔で小さくうなづいた。

「じゃあ、行こうか」

「うん」

レイアが、来たときと同じように、ウィザーズゲートを開く、光の扉が開きその中に子ども達が足を踏み入れた。

「またね、イリーナさま!」

「また来るからな!今度はもっと仲間沢山集めて!」

「そん時はお土産ちょーだいね♪」

「じゃ、元気で!」

快活に言い残して、彼等は光に消えた。

(・・・ありがとう、頑張ってね)

消えてしまった彼等をまだ虚空に見つめながら、イリーナは思った。



『うわああ〜〜〜っっ』

どしゃっ!と図書室の床に転がり落ちる4人、辺りは西日が差し込み、すっかり夕暮れの風景だった。

「あたたた・・あっ!戻って来た!」
「ホントだ!ここって・・図書館じゃん!」
「うわぁ〜夢みたい♪本当に異世界に行って来ちゃった!」
「なんか信じられないケド・・本当なんだよな!」

一拍おいて図書館で上がった「ワーー!♪」という歓声。フェアリーたちもやれやれ、といった顔だ。


「ウチら、この後予定あるから、一緒にウチんちまで帰るで!」

「うん、じゃあまた明日な!」

「ナナミ、あの・・・今度は、その・・オレ、も・・・な、なんでもない!じゃあなっ」

「ヒナタくん、ヤオラン、バイバイ!」

夕焼けの校舎を出て、4人の子どもたちがそれぞれ家路につく。
オレンジの光に照らされて、悠奈も七海も、日向、窈狼をそれぞれ見送っていた。

「じゃ、アタシ達も帰ろっか?」
「んふふぅ〜〜♪甘いなぁユウナちゃん、甘甘やでぇ!子どもの放課後の醍醐味言うたらぁ・・寄り道やがな!」
「えぇ〜〜?だってさっきママからメール来てさぁ、5時までには帰って来なさいって・・・」
「まだ4時40分や!20分もあれば・・・」



「あんっ!もぉ〜〜・・またダメだったぁ」

「ヘタクソやなあ〜〜、貸してみ!ココはこーやってやなぁ・・ほらっ!50点ゲットぉ!」

「へぇ〜〜、ナナミちゃんウマイねえ。ね、ウェンディ」

「ナナちゃん?帰らなくていいの?」

所は七海の家に近いゲームセンター。
あの後寄り道がてら七海行き付けのこの場所に寄ったのだ。
小学生はまだ入っちゃいけないと言われてるゲーセン。悠奈も初体験であり、最初こそえぇ〜?と迷ったが、一度遊ぶとこれがなかなか面白くハマる。七海はどこでこんな遊びを覚えたのだろうか?と思い聞いてみると、「京にーちゃんに連れてってもらった!」らしい。

2人して約束の時間もとっくにオーバーし、それでも太鼓ゲームに熱中していた。レイアの言葉もウェンディの言葉も耳に入らない。
そんな悠奈たちに、背後から別の声がかかった。

「こらっ!」

突然の大声にビクッとなる両者。

「びっ、ビックリしたぁ・・誰よ?」
「なんやねんなぁ?いいトコでぇ〜」

ボヤキながら振り返って、2人は固まった。
背後にいたのは腕に「青少年健全育成週間」と書かれた腕章を付けた、婦警さんだった。

「アナタたち小学生ね?こんなトコで遊んでていいと思ってるの?」




「ユウナちゃん!」
「ナナぁ!」

「ひぃっ!ま、ママ・・・」
「ゲぇ〜〜・・もう来た・・」

交番の入り口。鬼気迫る表情で駆け込んできた詩織ママと雫ママに、2人の少女たちはあからさまに顔を歪めた。
ヤバい。間違いなくヤバい状況。

「あ、お母さん方ですか?すみません。ゲームセンターで遊んでいたお嬢さん方を発見したもので、やっぱり小学生のコが保護者も無しにゲームセンターにいるのはどうかと思いまして・・・」

「スミマセンスミマセンスミマセン!」
「本当に申し訳ございません!!」

ひたすら頭を深々と下げて謝るママ2人。

「余計なことせんでええねん、クソポリババアめ」

どこで覚えてきたのか?ビックリするような暴言がボソッと飛び出したが、七海の言葉に悠奈が驚くまえに、2人は縮み上がった。

「ユウナちゃん!」
「こおぉらぁ!ナナぁ!!」

ママたちの怒りの怒声。小さく悪態をついた七海ももはや半泣きだ。

「ママとのお約束破ってこんな、こんなに心配かけて悪いコトして!」
「アンタっちゅう娘は毎回毎回・・・もぉ〜、今日という今日はぁ・・」

「「許しません!!!!」」

婦警さんたちもビビる大喝。
そのまま、机脇の畳のスペースに連れ込まれガッチリ捕縛される悠奈達。

もう、何されるのかわかってる2人は

「ヤダヤダヤダぁ〜〜〜っっ、ママぁ〜
ヤメテぇ〜〜っっこんなトコでダメぇ〜〜っっ」
「キャーーっイヤぁ〜〜った、助けてぇ〜〜っ、こっ殺されるぅ〜〜っっ!」

と泣きわめいた。殺されるなんてのはもちろん大袈裟なのだが、これから味わう苦痛はおそらく少女たちにとっては死ぬと思うほどの激痛なのかも知れない。

それぞれスカートを捲られ、ママたちは白とピンクの可愛らしいパンティもぐいっと下げてしまった。
婦警さんの目の前に、ちっちゃくて可愛い、白いマシュマロのようなぷりぷりお尻ちゃんが顔を出した。

パッシィーーンっっっ!
ぱっちぃーーんっっっ!

「きゃあぁぁあ〜〜〜っっ!」
「やっあっ・・ああぁぁ〜〜〜んっっ!」

最初の必殺の一撃。
詩織ママの平手と雫ママの平手。悠奈と七海のちっちゃいお尻に赤々とした花火をうちあげた。震える体、上がる絶叫。
一発で衝撃が体を突き抜け、ツ〜ンとした響きが涙を溢れさせた。

ぱんっ!パンっ! ペンッ!ぺんっ! ぱしーんっ! パシーンッ! ぺしーんっ! ペシーンっ!

「やんっ!やんっ!あうっ!あぁんっ!いたっ・・いたっいぃ・・ひぃっ!ぴいぃぃ!?・・きゃうぅっ!ひぎゃあぁっ!・・あぁ〜〜〜ん、ママぁ〜!痛い、痛いよぉおっ」

「当たり前です!ママ、メールでなんて言ったの?ナナミちゃんと5時までに帰ってらっしゃいって言ったでしょ!?それなのに、お約束破ってこんな、不良さんみたいなトコで遊んでっ!」

「ふえっ・・だって・・ナナミちゃんがあ・・・」

パアーンっ!!

「いったああぁぁいっっ!うわぁ〜〜〜ん」
「言い訳ばっかりして、悪いコ!ほらっもっとオシリ!」

パァンっ! ぱぁんっ! ぺぇんっ! ペェンッ! ぱちんっ! パチィンっ! ぺちんっ! ペチィンっ! ばちぃんっ! バチィンッ!

「きゃあっ!ぎゃっ、ぎゃああぁぁっっ、ちょっ・いぎゃっ!ママっ!待って・・ひぃぃんっ!待ってってえ〜〜っっ、やあぁぁんっっ、いたっ、いたぁあぁぃ・・ぴぎゃ!痛すぎやってえぇ〜〜っっ」

「当たり前やろ!しょー懲りもなく悪さしてぇ、しかもユウナちゃんまで巻き込んで!ママいつも言ってるやろ?学校のルールは守らなアカンって、なんでフツーに破りさらすんじゃアンタってコはぁ!もぉ、ママ今日はちょっとやそっと泣いても許さへんからな!」

「ち・・ちょっとやなくてさっきから大泣きやんかぁぁ〜〜っっ」

バシッ! ばしっ! バシィンッ!

「あぎゃっ!ひぎゃっ!あんぎゃあぁっ!!・・ふっ、うえぇぇ〜〜〜んっっ!」

「まだそんなコト言うて・・コッチか?悪いのは?ナナちゃんの悪いオシリはコッチかぁーっ!?」

ジタバタ暴れて、手足をバタバタ、首を振り、涙を飛び散らせてぎゃんぎゃん大泣きの2人。
その様子をみながら、ウェンディがレイアに言った。

「あのヒトたち、モンスターより怖いし強いわよ?なんなの?」
「アハハ・・普段は優しいんだケドねぇ・・」


「まったく、そんなに痛がって泣いて暴れるなら最初からしないの!こんなコトして2人とも・・」
「お尻ぺんぺんされるのわかっとったやろ!?」

「「自業自得!!」」

ぴっしゃあぁ〜〜〜んっっ!!
ぺっちぃぃーーーんっっ!!

「ぃやああぁぁ〜〜〜んっっ!」
「びええぇぇ〜〜〜んっっ!」

ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぺんっ!ぺんっ!ぺんっ!ぺんっ!ぺんっ!ぺんっ!

ぱしんっ!ぱしんっ!ぱしんっ!ぱしんっ!ぱしんっ!ぱしんっ!

「やめてぇ〜〜っっ!!やめてやめてやめちぇぇ・・いだぁいぃ・・いだい、いだいよぉぉ〜〜・・ああぁぁんっっ!」

「やめてってぇぇ〜〜っっ・・ママぁぁ〜〜っ・・痛いいぃぃ〜〜いたいいたいいたいぃ〜〜っっっええぇぇんっっ!」

ぱちぃんっ! パチィンっ! ぺちぃんっ! ペチィンッ!

「やあぁぁんっやんやんやぁんっ!いらあぁいぃ・・ごめんなさっ・・ゴメンなしゃっ・・ママッ・・マぁマぁ〜〜・・もっ・・おしっ・・りぃ・・ムリ!」
「おちぃりぃ・・オシリぃ〜〜いたあぁぁいぃぃっ・・ゴメッ・・ごめちゃぁ・・」


「「うわあぁぁぁ〜〜〜んっっゴメンなさあぁぁ〜〜〜いぃっっ」」



「それじゃ・・」
「ホントにご迷惑おかけしました」

「い、いえ・・」
「私たちは・・ただ職務を全うしただけですから・・も・・もうしないよねぇ〜〜・・ヨシヨシ。イイコになれたもんね?ね?悪いコトしたらこんなに痛い思いするんだよ?もぉオシリ叩かれたくなかったらママたちの言うこと聞いてイイ子になろうね?」

お仕置きが終わり、未だにパンツをはくのも忘れて畳の上でエンエン泣いてる悠奈と七海の頭を優しく撫でながら婦警さんの1人が言った。
悠奈のオシリ。七海のオシリ。双方のちっちゃくてマシュマロのように白かったお尻は見るも無残に真っ赤っかに腫れて、倍くらいの大きさに腫れあがっていた。

まるでスモモ。桃尻が真の桃尻と化したのだ。
畳の一部は2人の流した涙や鼻水でいくつもシミになっており、それが厳しさを物語る。
今の時代にここまで娘を厳しい体罰で躾けている家庭がすこし珍しくて、2人の婦警は驚きながらも少し感心した。

「ほら、ユウナちゃん」
「ナナも!婦警さんたちにゴメンナサイしなさい」

2人のママに抱きあげられた両者がようやくえぐえぐ泣きながら搾り出した。

「うえっく・・・ひぃっく・・ごめっ・・ごめぇん・・なちゃいぃ・・」
「もっ・・しませぇっ・・ひくっ・・ぐしゅっぐしゅっ・・ごめんあしゃい・・」




「ちょっと遅れちゃったけど、まだ間に合いますよねバイキング♪」

「大丈夫大丈夫!今日は特別3時間コースやし!食べるで〜飲むでぇ〜・・体力つこたらオナカ減ったわ!な?ナ〜ナちゃんv」

「ユウナちゃんももうイイコになれたもんねぇ〜、エライぞぉ〜何食べる?」

すっかりママ2人のご機嫌が直ったのは嬉しかったが、今、悠奈と七海の考えてることはひとつだった。


(・・・・オシリ痛くって・・)
(・・・・座れへん・・・)

そんな悠奈を遠目で見つめる目がひとつあった。

黒髪の少年。

「なぁ〜〜・・ユイトぉ?いつまでアイツ見てるんだ?」

黒マントがチャームポイントの妖精レムは、隣のユイトを見て言った。2人は今、住宅の屋根の上から悠奈たちを見下ろしていた。

「アイツ・・・まだかーちゃんにケツ叩かれて叱られてるのか・・結構可愛いいじゃん♪やっぱガキだな」



              つ づ く